ノンカロリー、カロリーオフ

去年、半年ほど実家に住んでいて、その半年で2キロ太った。わたしを診た医者はもっと食べろと言った。あれを食べろこれを食べろ、このサプリを飲め、母は言われたとおりに毎日3食作った。こんなに食べたら太る、わたしは言い続けた。こんなに食べたら太る、太った、ほらもう1キロも太った、今夜は果物だけでいい、もういらん、いらん。だけど出されてしまったものはすべて食べなくては気が済まない性格なので、(わたしはご飯を残すことが死ぬほど嫌いである)結局すべて平らげてしまう。ご飯粒ひとつでも残っているととても不快な気持ちになる。以前わたしと一緒に仕事をしていた先輩はそういうところに無頓着で、茶碗の中にご飯粒がいくつも付きっぱなしになっているのを平気でそのままにしているのを見て、わたしはこの人のことを根本的に無理だと思った。どれだけ仕事ができても英語が話せても数字に強くても、人間として、終わっている。ご飯とはそういうものだ。出されたものは食べろ。食べられない量など最初から食べるな。自分以外の命を何だと思っている。お前はそんなに偉いのか。その米粒ひとつに対して、お前はそんなに偉いのか。

半年経って、一人暮らしに戻った。年末に健康診断を受けて上述のとおり2キロ太ったという宣告を受けて愕然とした。と同時に、これでやっと自分のペースで食事ができると安心した。あれこれ模索して、平日の場合朝はご飯一膳に卵、昼は総菜パンひとつと野菜スムージー、夜はそのときによって変わるが、だいたい、ご飯一膳に納豆と豆腐。おしまい。休日の場合は起きるのが遅いので、時間をずらせば2食、もっとうまくいけば1食で済む。これがわたしの1日の食事。とにかく痩せなくては、そればかりを考えていた。そうしたら少しやりすぎてしまったようで、先日受けた健康診断では3キロ落ちていた。あら。こんな体重、学生時代ぶり。でもまあいいか。目標は達成。

いつものルーティンなメニュー以外のものをたまに食べると、おいしかったなと思うよりも先に、ああ、食べてしまったなと思う。単純に考えて、食べた直後は、そのお料理がもともと持っていた重さをそのまま取り込んだことになる。お料理の重さの分だけ、わたしは確実に太っている。排泄が滞れば、取り込んだ分の重さはどこにも行けずどんどんわたしの中に蓄積されていくんじゃないかと感じる。でも人間って、一日中寝ていても1000kcalは消費するものであるらしい。それに加えて仕事で少しでも動き回ったり、頭を使ったりするともっと消費されているのだろう。だから大丈夫、きっともう少し食べたって大丈夫。頭ではわかっていても、わたしは今日消費したカロリーと食べたもののカロリーを天秤にかけずにはいられない。どちらの値も正確な数字なんて分からないのだから、意味がないのはわかっている。だけど今日のわたしはどうだった? どれくらい、足りずにいられた? だってその足りなかった分は、たまにやってくる外食や飲み会の機会に充てることができるから。そうしたらわたしの中でバランスは保たれる。いつからだったか、自分で基準として決めていたBMI16を維持できる。わたしの体はどうせ放っておいても老いるのだ。代謝も落ちて太っていくのだいつの日かはきっと絶対に。だったら、今少しでも、いらないものは持たずにいたいと思うのは別におかしいことではないように感じる。
わたしは太りたくない。太ったわたしはわたしではないと思う。わたしは太るのが怖い。それに食べることだって、正直、そこまで興味はない。あれば食べるしなければ食べない。それでいい。平日の食事が満腹中枢まで刺激してくれる栄養剤だけで済んだらどんなにいいだろう。世の中の食品メーカーよ、はやく開発してくださいな。

高校生だったときに、地元の駅のホームで時折姿を見かけていた女の子のことを、たまに思い出す。
明らかに摂食障害で、やせ細っていて、真夏でも冬服の制服を着ていた。まさに「骨と皮だけ」と表すのがぴったりな、骨格がよくわかる形をした両脚、頬もこけていて、何の表情も、わたしは読み取ることができないままだったけれど、切れ長の目の形がとても美しかったことを、少しだけ茶色がかかっていてやわらかそうで毛先がふわりと波を持っていた長い髪のことを、あの目を、あの髪を、わたしは今も思い出す。わたしたちは住んでいる町がおそらく同じで、降りる駅の違う別々の高校に通っていたから帰りの電車で姿を見かけることはめったになかったけれど、一度か二度だけ、帰りの電車の、彼女の高校がある駅のホームで見かけたことがある。真冬だった。雪も降り、とても寒い日だった。彼女はその寒さや雪から身を守るように、ホームへと下りる階段の隅で、分厚いコートを着て、目元すぐ下までぐるぐるマフラーを巻いて、スカートの下にはジャージを履いていた。その姿を電車の窓越しに見つけたとき、うわあ、あったかそう、と思ったのだった。だけど、きっと全然、あったかくはなかったよね。そこまで着込んでも、きっと、寒かったんだよね。
あのときもまた、あの目を覚えている。マフラーのすぐ上にふたつ並んでいた、がらんどうの、美しいあの目を。

痩せていることにつよく惹かれる。会社にいても、同じフロアにいる女性たちと自分を比べずにはいられない。あの人も、あの子も、みんな細い。腰も腕も足も、みんな細い。そしてみんな、きれいだ。それに比べてわたしはどうだろう。考え出すと悪いところばかりどんどん出てくるから、せめて「太った?」と聞かれないように、痩せていなくてはと思う。結局、すべてここに行き着いてしまうような気がする。メディアを見ていても、どう見ても摂食障害なのでは、と思うくらいに痩せている人の肉体に強く惹かれてしまう。体のどのパーツを見ても骨の形が浮き出ているような、あのごつごつとした体に気づけば心を奪われている。ほんの一時でもいいから、あそこまで痩せてみたいなと何かにつけて思う。今、これを食べなかったとしたら。今日の夕飯を、抜いたとしたら。明日何も食べなかったとしたら。そのときわたしは、どんな姿になるのだろう。この体すべてが、この指のようになったりするのかな、とか。わたしの指は生まれつき、体のどこよりも細く痩せていて、そして美しいから。
自己愛は偏重していく。わたしは、偏重していく自己愛そのものをまた愛し、醜さと愚かさに蓋をしながら生きていく。愚かです、本当は愚かだとも思っていないのかもしれません。だけどそうしなければ、立てません。

食べるということは、生きるということ。これからも生きるのだと意思表明をすること。生きるということは、恥と罪の上塗りの連続で、それでも自分の足で立つということ。そのくせ、自分の人生だというのに自分でコントロールできない部分が多すぎる。せめて何かひとつだけでもいい、自分の力だけですべて支配できる何かがほしい。かつ、他人に認められたい。だから、目に見えるものじゃなくちゃいけない。そのうち、わからなくなっていく。誰のためでもなく、ただ目の前の数字を減らすことで頭がいっぱいになっていく。もっとやれる、と思う。死にたいから食べないんじゃない、生きるために食べないのだ。だけど食べないことには、生きられない。人生は、結局、コントロールできないのよ。

故郷の駅で出会ったあの子。先輩だったかもしれない、同い年だったかもしれない。なんの表情もなかった、だけどわたしはあなたの目の形がとても好きだった。それから、これは言ってはならないことかもしれないけれど、あなたの、その痩せた体が好きだった。食べなきゃだめだよ、体に悪いよ、死んじゃうよ、いろんな言葉が降り注いで、あなたはそれをことごとく受け流してきたやり過ごしてきたのかもしれない。だけどわたしはあなたへ、頑張ってたんだねと、言いたい。それだけ痩せるためにはまず頑張らなくちゃいけないこと、ほとんどの人が、忘れているような気がしてならない。
あなたは、頑張っていた。わたしはそんな渦中にいるときのあなたを、今でも覚えている。

いくつになっても太るのが怖い人、食べることを嫌がる人は一定数存在している。
今日も朝が来た。いつも通りの食事メニューで、わたしは仕事に向かう。
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Pierce for my Pierce ある愛の告白

先週、友達が誕生日を迎えた。先月、わたしはそのことを奇跡的に思い出した。大人になってから、人の誕生日をなかなか覚えられない。どれだけ仲がいい友達でも忘れることの方が多い。そしてまた毎年後悔する。今年のわたしは思い出せたことそれ自体が嬉しく、ぜひプレゼントを買おうと思った。数年前に彼女から誕生日プレゼントをもらったことがあるのに、一度もお返しをしていなかった。そのことがずっと気がかりでいた。
お気に入りのハンドメイドアクセサリーのブランドがグランフロントで期間限定ポップアップショップを出展するという。ちょうどいい、わたしが大好きなブランドのアクセサリーをプレゼントできるなんて、なんだかわたしの一部をそのまま渡すみたいで素敵。ショップは充実の品揃えで、ちょうどクリエイターの方が店頭に立っていらっしゃっていて、相談に乗ってもらいつつこれと思ったピアスを選んだ。誕生日プレゼントなんですと伝えると、丁寧にラッピングもしてもらえた。とっても満足して、渡す日を心待ちにしていた。

今日、半年ぶりに友達に会った。ふたりとも気になっていた中津のカフェで食事をすることにした。わたしは早々待ち合わせ場所を間違えて、駅集合のはずが現地集合となった。ほぼ真っ暗な中津商店街の先をグーグルマップが示していて、これはもしかすると見つけられないかもしれないと思い写真を撮って彼女に送った。すると彼女はその写真を撮るわたしの姿を見つけ、わたしのうしろをついて来ていたのだった。わたしを追いかけて走ってくる彼女。暗くシャッターが閉まりっぱなしの中にぽつぽつと開けている、レコードのお店、小さなギャラリー、パン屋、アトリエらしきスペース。

カフェは商店街の反対側の出口のすぐそばにあった。小さくて、レトロで、カラフルで、波を描いたカウンター。自家製果実酒をそれぞれ試し、人気メニューのキッシュを食べた。
「そうだ、ちひろちゃんも27だもんね。わたしもこないだ27なったし」
彼女がふと呟く。そうだね。わたしは立ち上がってカバンの中からあのプレゼントを取り出して、おめでとうと差し出した。彼女は喜んで、綺麗にラッピングされた紐を解こうとしてなかなかうまくいかない。ようやく開いた箱の中から現れたピアスを見て目を輝かせる。「かっこいい、大振りのアクセサリーがちょうど欲しかったんだ。でも」
わたしは、あっ、と思う。
「わたし、ピアス開いてない」

痛恨のミスだ。サプライズにこだわるあまり彼女にピアス穴があるかどうかを確認するのをつい怠ってしまった。そういえばなんの疑いもなく買ったけれど、買ったあとしばらくして、いやひょっとすると…とは思っていた。けど、考えないことにしていた。しかし、見事に本末転倒の事故になってしまった。いや、でも大丈夫、これなら自分でパーツ付け替えられそう、ユザワヤ行くわと彼女は慌ててフォローしてくれる。わたしはただ、謝るしかない。けど、

「このピアスのために開けて」

何の気なしに言ったわたしの一言が、彼女をときめかせたみたい。でも確かに、わたしがあげたアクセサリーのために彼女の体に一生の穴ができるのだと思うとすごい、愛の告白みたい。そもそも、このブランドのピアスを贈ったこと自体が愛の告白みたい。ピアスって、体を通すアクセサリーだから、どこか特別よね。ネックレスもブレスレットも指輪ももらったことあるけれど、体を貫くピアスは特別よ。ずうっと一緒、体の一部。ピアスは愛の告白。

全国の百合書きの人たち、ぜひ使ってねこのセリフ。フリー素材で、素敵なものを書いてくださいな。ピアスは愛の告白よ。

20171007 / alles gute zum Geburtstag!

finding the moon -20170821 KURASHIKI

天野月ライブを終え、荷物を抱えてホームで倉敷行きの電車を待っていました。サッカーだか、フットボールだかのユニフォームっぽいものを着ている人だったり、同じ柄のタオルを首に巻いている人がたくさんいて、もしかするとどこかで何かの試合があったのかもしれない。10分ほど待ってからやってきた電車に乗り込み、運よく座ることができたのですが、この電車ほんとに倉敷行くのかなと急に心配になり、隣に座っていた女性に話しかけました。この人もユニフォームを着ていました。
「すいません、この電車、倉敷行きますか」
「行きます! 倉敷からいらしたんですか?」
「いや、今夜倉敷に泊まるつもりなんですけど」
「あっ、じゃあもう倉敷は見て回りました?」
「いえ、明日観光するつもりでして」
ああそうなんですか! と女性がにっこり。偶然にもこの方、倉敷にお住まいの方でした。「出身は姫路なんだけど、学校が倉敷でそのまま倉敷に住むことになったのよね」そして「倉敷はどこを見て回るか決めてるの?」
いえ、わたしは答える。「大原美術館以外は、何も決めてないです」
すると女性、「わたしが暇ならいろいろ案内してあげたいんだけど」とつぶやき、倉敷駅に着くまでの間、倉敷おすすめスポット(もちろんその方独自のコアな情報)をいろいろ教えてくださいました。何の観光本も持って来なかったわたしは言われるままにふんふんと頷き、わざわざスマホで調べてくださった画面をほおーっと見たり、そんなことをしているうちに電車は倉敷に着きました。
「楽しんでいってくださいね」
にっこり笑って送り出してくださった女性にお礼を言ってわたしは倉敷に降り立ちました。たまには人に聞いてみるといいこともあるな、と思いました。そしてせっかくだから、おすすめされた場所はとりあえず訪ねてみようと思ったのでした。たぶん、このときあの人に聞かなかったら永遠に知らないままでいた場所だろうと思ったので。



倉敷美観地区、夜のライトアップされた光景もぜひ見たかったんですが倉敷に着く頃には疲労の極致で、一刻も早くホテルに入って寝る以外の考えがなく(ここでも夕飯をすっ飛ばしている)またの機会にとすることにしました。
倉敷めぐりのスタートは大原美術館です。倉敷に行った人、倉敷出身の人は口をそろえて「大原美術館には行っとけ」と言いますね。電車で出会った人も「とりあえず大原美術館にはぜひ行って!」とのことでした。ということで、大原美術館は少なくとも外せないポイントなんだろうと美観地区をうろうろ。川が走っていて、アヒルがたくさん、鯉がたくさん、そして鷺までいる。両側の柳、涼し気でとてもいい。天気もよかったので、柳の緑色がとても映えていました。

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大原美術館、とりあえず行こうとは思っていましたが実はどんなコレクションなのか全く知らなくて、(モネの睡蓮があるという程度の情報しか持ってなかった)前日に調べてみてやっとなんだ結構すげえ美術館なんじゃん…と恐れ入った感じ。しかも本来月曜日は休館日らしいのですが8月だけは無休でやっているとのことで、あっっっぶなかった……それすら調べていない。
入場券にハンコを押してもらって重いドアを開けるとすぐに展示室になっていて、いったんロビーみたいなところに出ると思っていたのでかなりびっくりしました。水のペットボトル持っていたので、でもコインロッカーらしいものもないし、やばいな、怒られる、どうしよう、飲みません、飲みませんよ…と念じながら絵を見ていました。
印象派の美術館でした。こんな画家の絵が倉敷に、ていうか日本にあるんだ…と、びっくり。児島虎次郎のアサガオに水をやっている女の人の絵がとてもよかった。エル・グレコの受胎告知は数年前のエル・グレコ展(国立国際美術館)で見ていたけど、もともと君はここにいたのか!! と驚きの再会。しかしいい場所に置いてもらえててよかったね。
あと本館だったか分館だったか忘れたんだけどJ.ポロック、J.ジョーンズなど20世紀アメリカ美術の人たちもいて驚き&うれしい。小さかったけど、ああこれぞポロック! ああこれぞジョーンズ! な作品でした。分館には篠原有司男の作品もあって楽しかったです。ボクシングペイントでも空飛ぶコーラのあれでもなかったですけどね。
それにしても本館・分館・東洋館・工芸館とすべて見て回ると結構広いし、思った以上に時間が必要な美術館だった。余裕をもって、午前をすべてここに充てるタイムスケジュールがいいかもしれないです。工芸館の棟方志功の版画も素晴らしかったです。谷崎潤一郎の詩? とのコラボ画がよかった。



そして、電車で出会った方オススメポイントその1。
「本物のお花をね、蝋で固めてブローチにしてるお店があるの。本物のお花だから一点ものだし、時間が経ったらあめ色になったりしてそういう変化も楽しめるのよ。ひとつ2,000円くらいで買えるものだから、行ってみて!」
「ほう! それはすごいですね。探してみます!」
その名も、苑工房さんというお店です。大原美術館から結構近い、川を渡って区画をひとつずれたところにありました。美観地区、だいたい建物の形が同じなのでピンポイントでこの店を探す! となると難しいかもしれないんですがここは割とわかりやすいところにあったと思います。でもお店の前に何か看板が出てるわけでもなくちょっと中を覗かないと分からないかも。
恐る恐る入ってみると、お店の中には笑顔のおばさんがおひとり。お辞儀もそこそこに見学してみると、ブローチだけでなくペンダントやピアス、ブレスレットなどバリエーションは豊富でした。(でも確かにブローチがいちばん身に着けたときに映えるかもしれない)お花も四季折々のラインナップで、最初は触るのちょっと怖かったんですがおばさんが「大丈夫! きちんと蝋で固めてあるから! ほら! 握っても大丈夫!(ガチで握ってる) むしろ床に落とされる方がね、嫌なの! ね!」とすごいアピールをしてくるので試しに手に取ってみると、確かに! 固いぞ! 特に金属というわけでもないので軽い! 手触りはまさに、蝋! です。
ピアスが好きなので、この大振り紫陽花の片耳ピアスを購入しました。尾道カエルと並べると、すごい6月感です。まさに6月。つけてみると思っていたより大きくてイヤホン入らなくねとか思ったんですけど大きい分だけ目立つし華やかなのでやっぱり好きですね。大振りのアクセサリーは大好きです。

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苑工房さん、こちらです。→http://www.en-kobo.jp/



電車で出会った方オススメポイントその2。
「あっ、コーヒーは好き?」
「(なんでいきなりコーヒー?)ハイ! 大好きです!」
「じゃあね、ここ行ってみて、コバコーヒー! 結構有名でね、お店で豆も売ってるんだけど、それをわざわざ買いに来る人もいるの! 場所はね、大原美術館がここにあるとするとここをこう川があって(以下略)」
「わかりました! 行ってみます!」
ということで、コバコーヒーさんなるお店を探しました。こちらは苑工房さんよりもちょっと見つけにくい、というのもひとつの建物の中にいくつかお店が入っていて、コバコーヒーさんはその最奥みたいなところにあったからです。立て看板は置いてあるけど、どうもめちゃくちゃ奥っぽい…大丈夫かな…すごい薄暗いガチな喫茶店だったらどうしよう…と思いつつ覗いてみると、予想に反してすごく日当たりもよく明るいお店! 女の人がひとりでカウンターにいらっしゃって、お好きな席にどうぞと案内されたのですが見たところ4人がけのテーブルしかなさそう、ひとりでテーブル占領するのは気が引けるな…と思いカウンターに座ることにしました。立派なサイフォンが3つ並んでいたので、引き付けられてしまいそのサイフォンたちの前へ。
コーヒーはオリジナルブレンドだと「マイルド」「ほろにが」「ストロング」の3種があり、淹れ方もペーパードリップ、フレンチプレス、サイフォンから選べます(指定がなければペーパードリップらしい)いずれも500円です。
マイルドだと味わかんないかなあと思い(馬鹿舌)ストロングで、そしてサイフォンにものすごく惹かれていたのでサイフォン淹れをリクエストしました。マスターがいらっしゃって、これがまた一目でわかるマスターっぽさです。見たらわかります。

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なんてきれいなサイフォン!!! サイフォンが目の前で動くのを見るのもあんまり経験がなくて、下から赤く照らされるガラスの球体なんてきれい!!! そしてぶくぶく泡立つこの実験っぽさ、淹れてるのはコーヒーなのに!! 最高!!!
目をキラキラに輝かせてサイフォンに見入っていたら、マスターから「そんなにサイフォン珍しいですか?」と声をかけられてしまいました。いや珍しいというか、珍しいですけど、きれいなんですよ!! と主張したかったんですが怪しい客になるので静かにしていました。
そしてやってきたストロングブレンド、確かにストロング(深刻なボキャ貧)主張が強いです。重い。酸味はわたしはそこまで感じなかったですが、とにかく重い感じです。でも「コーヒー飲んでる」感はすごくあるので、結構ストロング系は好きです。
メニューをぼんやり見ていると、2杯目は300円とのこと。そして目の前のサイフォンには1杯目で入りきらなかったストロングがたっぷり残っている。これはもったいないな、申し訳ないからこの残りもいただこうと思いながら3/4を飲んだところでマスター「もう全部飲まれました? 残ってるんで、どうぞ」ザァーッと注ぎ込まれる2杯目ストロング。
すげえこの店、問答無用の2杯目料金だ! 思わず笑ってしまいまして、しかしマスターがいる喫茶店はマスターこそが神であらせられるのでありがたくいただくことにしました。
どちらからいらしたんですかと訊かれたので、大阪から来まして昨日たまたま電車に乗り合わせた人にこのお店を紹介してもらいましてと説明したら「ほう、奇特な方もいらっしゃるんですねえ」えっ、そういう感じ? そこは喜んでくださいよ。
しかし結構気さくな方で、ぱっと見「黙って飲め」的な方に見えたのでちょっと意外。気づけばいろいろ要らんことまでお話してしまった。最初にお迎えしていただいた女性の店員さんとも仲良しのようで、なかなか職場環境はよろしそう…よきこと…
ストロングは2杯も飲んでしまったけど、せっかくだし他の味も試そうかなどうせ2杯目料金もう取られてしまったことだしということで、マイルドを注文したところ「ちょうど他のお客さん用に淹れたところだったので、プレゼントです」一瞬で出てくるマイルド。さらにコーヒーが練り込まれたラスクまで差し出されてしまって、ちょ、ちょっと待ってくださいこれはいくらなんでも、とお断りしようとしたところ黙って首を振り他の客には内緒ですよ的な無言のメッセージを受け取ることに。えっ、なんか、きゅんとくるよ…?! 倉敷美観地区の片隅で喫茶店を営む渋いおじさまが出てくる小説一本書けちゃうよ?! わたし、なんかいろいろもらいすぎだな…一体お会計はいくらになっているんだろう…と思いつつラスクをいただく。ほんのりコーヒー。甘くておいしい。コーヒーのおともにぴったり。
マスター、思い出したように一言。
「ちなみにそのラスク、賞味期限切れてるんで」
いや切れとるんかい!!! きれいにオチがついたところで、帰ろう…と思ったのでした。
(お会計ですが、1杯目の料金だけでした。いや、500円どころじゃなく飲んでますと2杯目料金払おうとしたんですが、カウンターに座っていただいたのでとのことでした。ひとりだしな~と思って何も考えずにカウンター座っただけなのに申し訳ない…)
※カウンターに座れば必ずサービスがあるかと言えば違うと思いますのでそこはその日のマスターのご気分と運次第です。ラッキーだったんだな程度にお読みいただければと思います。

コバコーヒーさん、こちらです。→https://tabelog.com/okayama/A3302/A330201/33011920/



この尾道~岡山~倉敷旅行を振り返って、まず思ったのは山陽の方は親切ということですね!
山陽に限らず、月子ファンの方々も親切でした。
2泊3日で旅行したのがめちゃくちゃ久しぶりで結構疲れましたが、一人で旅をすると当たり前ですが自分のタイミングで行きたいところに行きたいように行ける、それから周りの方も親切にしてくださるような気がします。
特に、電車で出会った女性にはとても感謝です。お名前も聞かずにほんの数十分隣に座っただけですが、いろいろお話してもらえてうれしかった。行く先々で「学生さん?」と聞かれるのは得なのか何なのか、そんなに危なっかしく見えるのか…
今年はもう旅行の予定はないですが(たぶん)そもそも旅行もそこまで好きというわけでもないですが、時間とお金があればまたふらりと出かけたいところです。たのしかった!
倉敷は賞味期限切れのラスクのくだりでオチがついたなということで満足してとっとと帰ってきてしまったので次に来ることがあれば1日まるまる使ってゆっくり散歩したいところです。あと岡山、ライブ以外にどこも行っていないので次は後楽園とか、行きたいな…庭園系は兼六園くらいしか行ったことがないので…
たのしかった! すばらしき夏でした。

finding the moon -20170820 OKAYAMA

爆睡していたところをスマホの目覚ましに起こされ、7:00。8:00にホテルの送迎バスに乗る予約をしていたんだった…ともぞもぞ活動を開始し、どうにかチェックアウト、バスに乗り込み尾道駅まで。ふたたびカバンをコインロッカーに預け、財布とハンドタオルが入る程度の最小限のポーチだけで商店街方向へ。行先はまず千光寺、そして念願の梟の館です。
途中、尾道浪漫珈琲というお店でモーニングをいただきました。前日に通りかかって気になっていたところでした。ワッフル、おいしかった! すごい量のバターが乗っていた! そしてコーヒーも一杯一杯小さいサイフォン? で目の前で入れてもらえて、サイフォンのあの実験っぽさがすごく好きなわたしとしては朝からテンション上がりました。コーヒーはあまりクセもなく、ガツンとくるほどでもなくマイルドで飲みやすいお味でした。



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この日の尾道、前日に引き続き朝からとんでもない酷暑でした。ロープウェーの切符販売所にたどり着く頃には汗だく(9:00am)、そして満員のため始発には乗れず、ロープウェーのカゴの中は中で超満員、汗が止まらない、しかし窓際をキープしたのでまだマシ(たぶん)隣に立っていた男性が立派なカメラで外の景色をカシャカシャ収めていたのが印象的だった。
そして降り立つ山頂、文学の小路経由で千光寺。関西から来たっぽい、結構ガチな文学家族が前を歩いていて、志賀直哉の暗夜行路の石をどうキレイに撮るかで奥様めっちゃ粘ってて、ご主人が「あとつかえてんで…」とボソッと言ったところをそそくさ下りました。千光寺では売店のおばちゃんのセールストークに乗せられるがまま、おばちゃん曰く「最強のお守り」を気づけばお買い上げ(ほんまかいな)お参りを済ませ、順調に坂を下りるも途中「この道は土砂崩れの影響により現在通れません」の通行止め。アレッ、待てよ、梟の館って確かこの道通るんじゃなかったっけ…と頭が真っ白になり、すごいアバウトな迂回路の説明を頼りにどうにか猫の細道らしき道へたどり着き、梟の館の開店時間まですぐ下の尾道アート館を見学していました。ちゃんと入場料、払った! 払ったぞ! 猫ちゃんが一匹いました。首輪をしていたので、どこかで飼われているのでしょう。

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そろそろかな~と思い梟の館入口まで戻ってみると、すでに開店を待っていらっしゃる女性がひとりおられました。ほう、やはり人気店なのだな…と特に何を思うわけでもなくその後ろに並んだのですが、この方、よくよく見てみると肩に提げているのは月子っぽいトートバッグ、そしてtwitterの噂で見ていた(?)推し曲Tシャツ…ど どうしよう 月子クラスタだ! しかし推し曲がカメリアとは、なんか、仲良くなれそうもする…しかしこれはなんかやばい事態なんでは…(なにがやばいんだろう)とひとりでテンパっていたところに、門が開き現れる店員さん。

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ご案内されるままに中へ進み、お店は本当にザ・古民家。思わずお邪魔しますと言っちゃいそうな玄関。入るとすぐ梟グッズ販売コーナーがあって、カワ(・∀・)イイ!! と思いつつ(「かわいい」で変換したら出てきた)奥へ進むと、おおお、ここが、ここがあの梟の館…!(内観は撮影禁止です)天井にまで梟がいる。いろんなところに梟がいる。窓際の席に座ることにして、注文を済ませ、早速、お手洗いの見学に…

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あああーーーー!!! すごいぞ夢のようだ。ちゃんとウタカタのジャケットが飾ってある。
トイレをジャケット写真に選ぶというのもすごいよなというか、ウタカタは音楽、PVともに大好きな曲で、本当にここに来れる日が来るとは…と胸がいっぱい。初めて尾道を旅行したときもるるぶに載ってた笑 のでぜひ行こうと思ってたのですがその日はたまたまお休みで、今回も前日の夜の部フリーライブがここだったということでもしかすると今日臨時休業とかするんちゃうの…と正直また縁がないのではないかと思っていたのですが、よかった。本当によかった。
戻ってくると、カメリアTシャツのお姉さんに「昨日のつっこさん、この椅子に座ってたんですよね」と奥のソファを指さしながら話しかけられて、めちゃくちゃびっくりしてしまって「え、あ、そうですね」みたいにお返事してしまったら「あっ、もしかして昨日夜の部行かれたんですか?」と来て「い、いえ行ってないです。昼の部は行ったんですけど、当たらなくて…」としどろもどろで答えると(どんだけ人見知りやねん)「わたしも当たらなかったんですよー、だから悔しくて」と笑顔でおっしゃってくださり、ああ、なんだ、みんな考えることは一緒か…と、わたしのような半端ものが当たらなかったのは当然にしても、ここまで気合い入ったファンの方でも当たらない方はそりゃ当たらなかったんだなというか、安心じゃないけど、なんかちょっと、楽になった…(不思議なきもち)
ちなみにその方、風船の撮影場所も頑張って回ってこられたそうで、(「見つけるの難しかったです」とのこと)ファンって、すっごいなあ…と思ったのでした。もちろんその方もこれから岡山参戦されるとのことで、整理番号順に並んでるときとか、会場とかでまたお見かけできるかなと思ったけど、これっきりだった。気さくで笑顔のすてきな、そして左利きの方でした。わたしもカメリア、好きです! お話してくださってありがとうございました! うれしかった! 
そうしてるとご主人がスマホを持って「こちらが昨日のリハの様子ですよ」と見せてくださって、ご主人しかもLIVEモードで撮っててナイスプレー! それからウタカタの撮影当時のエピソードを詳しくお話してくださって、なるほどお話好きの方なんだなという以上に、この方も月子に多大な愛着がある方なんだなという、ちょっとじんわりした。
それからもうお一方、昨日の昼の部には行ったけど夜の部当たらなかった人(男性)がご来店されて、なんだみんな月子クラスタ…! 考えること一緒…! すごい空間だった。決して広くはないお店の中に、月子を求めてやってきた人間が3人もいる…
期間限定レモンスカッシュ、おいしかったです。炭酸もそこまできつくはなく、レモンの甘さが優しかった。グラスも梟でもう感動。いつもならハーブディーとか注文するタイプですがこの日ばかりはもう暑すぎてレモンスカッシュ以外が頭に入らなかった…
「すごいですねえみなさん、ひとりのアーティストさんのために」とご主人がしみじみ。そうですねえ、ほんとにそうだと思います。それを抜きにしてもとても良いところなので、いつかまた絶対に行こうと思います。おすすめです、梟の館。

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鈍行電車に乗って岡山へ。岡山駅は新幹線も停まるので思ってたより大きな駅でした。桃太郎がいる。
CRAZYMAMA KINGDOMは結構街の真ん中? にあるライブハウスだった。近所の公園で整理番号順に並びました。ここでも番号順守のためいろんな人に番号を聞きまくる。なんかこの体験が前日に引き続きすごく新鮮だった…
整列して入場すると、前列が割と埋まっていてもうこの時点でテンパってしまって、ちょうど真ん中あたりにバーがあって(もたれる用?)ひとりなら入れる程度の隙間があったのでそこにお邪魔しました。
オープニングアクトは前日に引き続き笹岡さん。アコースティックで聴いたときに思った、きっと楽器が増えるとガンガン鳴らす系の音楽なんだろうと思っていたのは当たって、1曲目から飛ばしにくる感じ。ライブハウスのライブ自体が初めてだったので普通どうだかわからないんですけど、ライブハウスだと歌手の声より楽器の音が前に出てくる感じがしました。あと当たり前だけど、エコーみたいなのは、ないね。一回ぶつかってから耳に入ってくる音じゃなくて、もっと原型の、アンプから出たそのままの音が耳に入ってくるのね。
そして月さん。黄色のワンピース。ビューティフル・デイズ仕様だ。
1日目の日記でも書いたようにわたしはこの人が天野月と名前を変えてからの活動をきちんと追いかけていなかったし、セットリストのうちの半分は初めて聴く曲だったけど、この日の月さんの声は初めての生の声だったのだけど、すごく伸びてるなあと思った。すごく失礼なのだけど、月さんってライブになるともっとピッチが外れる人なのかなと勝手に思っていて、(歌も体力使うものばっかりだし)テンションの高さの方が前に出る感じなのかなと思っていたんですが全然、そうじゃない。こんなに難しい曲ばっかりなのに、その高音、その声で、出るんだ…! と感動した。ご自身のブログでもこの日は絶好調だったって書かれていたし、最後の最後に、ほんとに、よかったなあと思いました。初めてのライブ、そして、最後になるかもしれないライブで、最高の状態を聴かせていただけるのはほんとうに幸せだった。それから初めて聴く歌でも、歌詞が入ってくる。一回勝負の歌で、歌詞に揺さぶられる。さすがだった。「贅沢な日々」「鳥籠 -in this cage-」「Daisy」が耳に残った。
後半戦は、こ、これが噂に聞く後半戦か…! というか、熱かった。渦みたいだった。
わたしは、コンサートになると周りと一緒になって盛り上がるってことがなぜか、どうしてもできなくって、でもそれは楽しんでないわけではないんです。周りのかざした腕が揺れる様とか、それに光が当たって天井がちらちら揺らめくみたいになる様とか、あとは渦みたいになった空気の中にいること自体が夢の中にいるみたいで、それはそれで、陶酔だな…と思ったのでした。夢だった。噂の鮫とか、おおーって感じだった。前の方にいたらたぶん貧血で倒れてるやつ。バーがあって本当によかった。
巨大獣からのアンコール箱庭の流れは、本当に涙が止まらなくて、特に箱庭、これが聴きたくてどうしても聴きたくて、アンコールで流れたときはこれこそ夢が叶った瞬間だった。思えば、わたしはこの曲を知ってから、ずっとこの曲とともに生きてきた。この曲が常に、何事にも土台にある感じだった。わたしはわたしの小説が映像化するという妄想でよく遊ぶんですが、もしもわたしの『blue』が映像になるときは、主題歌は絶対に、絶対にこの曲だと思っていて、この曲があったからわたしはこの小説を書けたと言っても過言ではないくらい、この曲が何もかもを助けてくれた。これ!! って思える曲は人生のうちでそういくつもあるものではないと思うけど、箱庭はほんとに、これ!!! だった。箱庭の中、どんどん内側に向かっていくような、落ちていくような感覚を覚えるのだけど、(うずくまってぎゅーっと縮こまっていく感じ)その分内側に圧力がかかって、周りの壁を引き寄せて崩してしまうイメージ。
閉じ込められている状態っていうのは、自分で「閉じ込められている」と自覚しない限り発見されることはなくて、だけど確かに閉じ込められているから、どこにも行けないとか逃げ場がないとかそういう感覚は名づけるまでもなく自然に持っているものだと思うんです。それがあまりにも自然だから、その感覚に対して特別何かを思う、例えばいいとか悪いとか、好きだとか嫌だとか、そういうことはそもそも思わないんです。選択肢に上がってこないというか。ただ漠然とその感覚だけが独立して存在している。だけど双方その感覚を持った同士がめぐり会ったとき、互いが内側に沈み込んでいるつもりでもその圧力がいつの間にか壁を壊している。みたいなことが、1曲の中に全部入っていて、歌詞にもはっきりしたストーリー性があるわけでもないのに、まさしく「箱庭」以外にはありえない世界が立ち上がっていて、何これ!! とこの曲を初めて聴いたときは思ったんでした。もう10年前になるんですね。
とにかく、天野月(子)の楽曲の中では今も昔もこの曲が本当にいちばん好きで、深いところまで染みついているのです。これからも土台であり続けるんだろうなあ。涙が止まらなかった。歌ってくれて本当、ありがとうございました。
ダブルアンコールのアコースティック菩提樹も2日連続で聴けてよかった。今回は、何だっけこの曲とはならなかったぞ。インディーズデビューの箱庭、メジャーデビューの菩提樹で締めくくるとは、なんとも完璧だなあ、と思いました。



天野月子の作品は、歌詞ももちろん好きだけど、何にいちばん惹かれるかと言えば結局音楽そのものな気がします。わたしがバンド音楽をあんまり聴かないというのもあるんだろうけど、月子の音楽はすごく入り組んでいるというか、すごく多層的に聴こえます。ポリフォニーっぽいというか。「青紫」の「公園のベンチも 映画館の客席も」から始まるピアノの裏旋律はほんとにすごいなと思うし、「ZERO」のイントロは何をどうしたらそんな風に聴かせられるんだろうと今でも聴くたび不思議だし(ZEROのイントロ、知ってる天野月(子)作品の中でいちばん好きです)そのときいちばん良いものを、いちばん良い配置で組み上げていくような、確かに音楽なんですが、立体模型のようでもあるなと思うのです。あとは彼女自身が「天野月(子)」を全力でプロデュースしてるような、結局のところいちばんの大きな作品というのは「天野月(子)」そのものなんだなというその総合芸術っぽさ笑 が果てしなく壮大で、「人」を見ているのと同時に「作ること」という概念までも可視化されているというのが、ほんとうにすごいと思います。たぶん演劇でも絵画でも彫刻でも写真でも、どの方面に振れてもおかしくなかった人が選んだのは音楽。その選択の行き先が、とても面白いなと思う。

このライブに行くにあたってカバンを選んで荷造りしていたとき、それは高校時代から使っているショルダーバッグだったんですが、両端にサイドポケットがついているものでいつもは全く使わないし中に何か入れたとしたら入れたまま忘れてしまうんです。その、いわば封印されたサイドポケットを何の気なしに開けてみたら、10年前に買って高校~大学時代をずっと持ち歩いたmp3ウォークマンが出てきて腰が抜けそうになりました。ずっと失くしたものと思っていて。充電コードだけはなぜか他のコード類と一緒に別の場所に仕舞っていて、本体どっか行ったんだしもう捨てようかな…と思っていたところでした。そのコードを引っ張り出して、試しに繋いでみたら電源が入ったものだからまた腰が抜けそうになりました。生きてるよ。SONYめっちゃ優秀やん。
そのウォークマンは、最大5つプレイリストを作ることができるのですが、1から順に、ああ懐かしいねそういうカテゴライズね…と確認していったら、5つめのプレイリストは天野月子だけで出来ていました。ひとりの歌手の曲だけで作られたプレイリストはこれだけでした。
きっと今だから、出てきてくれたんだろうなあと思い、この旅行にも連れて行きました。学生時代のわたしの供養にもなったような気がして。

月さんありがとう。おつかれさまでした。中途半端なファンだったけど、ライブ行けてよかった。
次はいつになるのか、そもそも次はあるのか、置いといて、とにかく元気でいてほしいです。

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ライブTシャツ初めて買ったんですがめちゃくちゃ着心地がよいです。部屋着にしています。
そして旅はエピローグへ。

finding the moon -20170819 ONOMICHI

天野月子が好きでして。
8月いっぱいで活動を無期限休止するというお知らせをtwitterで知り、そういえば昔もこんなことがあったなと思い返してみたらそれはわたしが高校2年生だか3年生だかのときで、わたしに天野月子という歌手を教えてくれた友達がお通夜のようになっていたんでした。2008年の、最初の休止ですね。当時のわたしはまだ天野月子という歌手を知って間もない時期で、その友達のおかげでそれなりに歌は知っていたんですけども彼女ほどのお通夜にはならなくて、というのもそのときはこれから天野月子が発表していくであろう楽曲を追いかけるよりも今までに出ていた曲たちを聴き込む方がわたしにとっては大事で、彼女がそれまで発表していた4枚のアルバムで結構満足していたところがあったんです。それとたぶん同時期に鬼束ちひろの方が活動を再開したこともあって、わたしはそこまでがあんとショックを受けることはありませんでした。そもそも、リアルタイムで特定の歌手の活動を追いかけること自体がわたしにとってはあまり重要ではないというか、聴きたくなるタイミングとその歌手が活動しているタイミングは往々にしてずれることもあるしそれは別に悪いことではないと思うんです。
ただ、今年4月1日に月子が発表した(あえて月子と書きたいのだけど)無期限休止のお知らせを受けて、まあ言ってみたら再休止になるわけだからもしかすると次はないのかもしれないというか、そうなると、最後までライブに行ってみることは叶わなかったなあとちょっとしみじみしたんでした。いやむしろライブ行くつもりでいたのかよというか、休止の発表受けてからそういうことを言い出すのはなんかちょっとずるいよね。行こうと思えばどの時点であろうと行けたんでは? という。
なので、休止のお知らせを受けてからしばらくして、最後の最後に岡山でライブをするという情報を知り、無意識に岡山と東京を天秤にかけて断然岡山の方が近いし安いし、何よりこれが最後だし、もうこれを逃すとあとからめちゃくちゃ後悔するのでは? と思い、覚悟を決めてチケットを取ったのでした。生まれて初めてのライブハウスでのライブがまさか月子とは、そして岡山とは。岡山とか、わたし個人には何の用事もない。こんな訪問の仕方もあるんだなあと27になって初の発見。
そしてさらに、前日に尾道でフリーライブをするという情報も得て、これはちょっと悩んだのですがまだ交通手段を決めていなかったこともあり、どうせ行くなら岡山も尾道もそこまで変わらなくないか? というか、わたし個人としては岡山じゃなくむしろ尾道に行きたくないか? と思い始め、けっこうぎりぎりに、ダメもとで整理券に応募してみたらふつうに送ってもらえたのでした。ただちょっと音倉さんの対応が遅くて、果たして送料は要るのか要らんのか、そもそも本当に取れてるのかどうかがわからなくてそわそわしてはいました。しかもこれは今となってはどっちが間違えたのか分からないことではありますがなぜか整理券2枚取ってしまって、わたし確かに1枚で申し込んだはずなのにな…と首を傾げ、それからこの1枚のせいで本当に行きたかった人の分を取ってしまったんだとしたら本当に申し訳ないことをしたな…と、当日まで悶々としていました。シークレットなフリーライブだったので、大っぴらにSNSで譲り先を探すわけにもいかず。でも送られてきてしまったものはどうしようもないし、どうしようもない整理券2枚を持って尾道に降り立ったのでした。5年ぶり、3度目の尾道でした。前書きが長い! いつものこと!



高速バスで朝に大阪を出て、だいたい13時ちょっと前に尾道入りしたのですが、これがまたお日柄がよく…たいへんにいい天気なのは結構なんですがたいへんに暑くて、なんか尾道来るとき毎回酷暑に見舞われている気がします。
バスを降りてすぐ駅のコインロッカーに荷物を置いて(駅舎が移ってて一瞬途方に暮れたんですが手描きの案内板の文字がかわいかった)月さんももちろんのこと尾道好きの友人もオススメのアイスもなかのお店、からさわを探しました。海沿いの歩道を歩いていたんですが途中あまりに暑くて商店街に避難しつつ、わりと駅に近いところにあったからさわさん。

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アイスもなかは1個150円とのこと。お安いな…と思いつつ入店するとお客さんでいっぱいで、イートインコーナーは当然のように満席、そ、そうか…と思いつつ1個お買い上げ、お店を出てとにかく海へダッシュしました。「10分程度で溶けだします」という説明があったのですが、いやいや1分と持たないくらい暑いだろう。これは個人的なことですがアイスが溶けるという現象にものすごい恐怖を感じる人間でして、夏に屋外でアイスを食べるということがそもそもすごく強迫的なことで、バッと袋から出してバッと写真撮るだけ撮って(ブレブレ)一瞬で食べ切りました。いやでもね、おいしかった。たぶん。思ってたよりアイスが最初からやわらかくて(ハーゲンダッツとかだと開けたばっかりはカチカチじゃないですか、あんなんではない)ますます焦ってしまったんですけどたぶんもともとそういう食感のアイスなんですよ、ね? この味わってない感がすごい。真冬にもう一回行きたいです。そしてできるならお店の中でゆっくりいただきたい。

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しかし、写真のとおりものすごいお日柄の良さです。停泊する船たち、その下にある水の青と上にある空の青。

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~この間に訪問した場所については追記に回し、フリーライブまで時間を飛ばします~



会場は浄泉寺というお寺でした。
整理券が郵送されてきた際、ご案内シートに場所と住所が記載されていたのですが、まさか寺とは思わず、しかもドコここ? 状態で慌ててグーグルマップを開きました。尾道には確かにお寺はたくさんありますが、この浄泉寺、行ってみてわかったのですがなんというか観光地というよりはガチの寺で、ああ、地元にもあるわこういう寺、法事とかやるタイプの。みたいなお寺です。
いろんな場所で時間を潰しつつ、入場整列が始まってしばらく経った頃のタイミングを狙って向かうと、ちらほらと並んでいる方がいらっしゃる。わたしの整理番号は70番台でしたので、呼ばれるのはもう少しかかるだろうなあと思って少し離れたところにいたんですが案外すぐに呼んでもらえました。整理番号制のライブって本当に行ったことがなくて、結構あってないようなものなんではと思っていたら、近くの方と確認し合ってちゃんと番号どおりに並んでくださいと言われたのでちょっとびっくり。そこまで厳密なのか。ということで隣にいた男性と「あ、僕の番号の方が早いですね」「あ、す、すいません」みたいなやり取りをして、少し遅れてわたしの後ろに番号の近い方が割り込んできたり、そうか…こんな感じなのか…とまた新たな文化に触れた瞬間でした。
わたしの隣にいた女性二人連れがどうも本物の尾道民だったようで、「うちこの寺法事で来るんやけど」て言ってたのがちょっと面白かった。地元ークだ…でも地元に天野月が来るとか、いいなあ。
靴を脱いでおあがりくださいとのことで、いよいよ法事感が増してきた開場でしたが境内に入ってみると結構広くて、あの、お寺によくある足がやたらに低い椅子(やはり法事用)が並べられていて、な、なんと不思議な… とりあえず列に沿って詰めて座ってみるとまあまあな位置で、ちょっと左に寄ってはいるけどまあいっか~という感じ。そしてここでも過去のライブTシャツ、推し曲Tシャツを着ておられる方がたくさんいて、気おくれが止まらない。隣にいた尾道民の方ももしかしたら同じこと思ってたのかも。
「あっ、いつもの法事と何が違うんか分かったわ。お堂が閉まっとる!」
尾道民の方が言いました。なるほどなるほど。

開演時間の17時となり、そろそろかな~と思っていたところに、スーッと現れたのはなんとご住職。
わたしを含めた全員がなんとなく姿勢を正してしまうお客たち。
「ライブの前に…このお寺は浄泉寺といいまして、浄土真宗のお寺でございます。お寺といえばお葬式など悲しいことに使われる場所とお思いの方も多いと思いますが、昔は楽しいことや賑やかなことにもお寺が使われていたのでございます」
すごい、説法が始まった。このご住職、お顔を拝見する限り若い方で、事前に浄泉寺のことを調べたときも過去に何回かライブを受け入れていらっしゃるようで、きっとこのご住職が理解のある心の広い方なんやろなあと思います。そして「それではライブの前に、こちらのお堂には阿弥陀如来さまがいらっしゃいますので、合掌礼拝をお願いしたく思います」すごい、歌を聴く前に合掌礼拝とかなかなかない!さっき尾道民の方がおっしゃったお堂が開けられ、覗くのは金色の阿弥陀さま!手を合わせるわたしたち、「合掌」重い鉦の音が、ごーん…と響く。「礼拝」どうでもいいんですがわたしの地元には礼拝っていう文化があまりなくて、手を合わせたままお辞儀するのか手は離してもいいのか分からなくて結局手を合わせたまま礼拝したんですが、どうだったんだろう。



最初に登場したのが笹岡水樹さん。わたしこの方のことあまり知らなくって、ずっと「みずき」さんだと思ってたんですが「みむら」さんだった。水樹と書いてみむらさん…みむらさん…かわいいな…衣装も大振りの花柄(真っ赤、バラかな?)ワンピースでとてもすてきだった。わたしの席からは前に座る人がちょうど重なって絶妙にお顔を拝見することができなかったのですが笑 なぜかコードを押さえる手だけが何の遮蔽もなく見えて、それが照明に当たってものすごく、きれいだなと思った。
歌も、外見からうかがうにかわいい感じの曲なのかなと思っていたんですが、聴いてみるとこれは楽器が増えると結構ガンガン鳴らす系の音楽なんだろうな…というか、でも声はかわいい…なんだろう不思議な、ぜんぜん悪い意味ではないアンバランスが生み出した窪みみたいなのに引き込まれるような音楽でした。

続いて、月さん。わたしにとっては初めての、生月さん! 未だに「月」という名前に慣れないというか基本的に高校時代で時間が止まっている人間なのでついつい月子と呼んでしまうけど、月さん! だ!
演奏する椅子に座るときにちらっと月さんの髪が揺れて、あっ首のあたりで段を入れてるんだ、と変なことを思った。
そして譜面台は置かれるも肝心の譜面がないというほんのささいなアクシデントの待ち時間にからさわアイスの話をする月さん。座っている人の半分くらいが食べてきた! と手を上げて、すごい、こうしてからさわの売り上げが伸びていくのだ…
そして始まる1曲目は菩提樹だったんですが、アコースティックだと、何だっけこの曲と一瞬頭が真っ白になった。使う楽器って大事なんだな…と心底思った。「あなたに咲く菩提樹」のフレーズを聴くまでたぶん菩提樹だと分からなかった。何百回と聴いた歌なのに…でも、バンド版とアコースティック版だと全然雰囲気が違う、もはや別の曲に聴こえた。わたしには菩提樹がアコースティックになるという可能性を考えられてなかった…
個人的には、風船がセットリストに入っていたのがヤマが当たったみたいで嬉しかった。出発の前日に月子の曲を聴きながら荷造りをしていたのだけど、尾道要素がいちばん多いのはこの曲だよなあと思い、たまたまPVを見直していたのだった。尾道に着いてからも「わたしには聞こえる あなたの呼び鈴」を繰り返し口ずさみながらいろんなところを歩き回って浄泉寺まで来たので。
それにしても、お寺ってこんなに綺麗に音が響くんだな! と終始感動しておりました。でも確かに鉦の音とか響き渡るもんなあ。あとギターの音を生で聴くことって全然なくて、その美しさにもまた感動したのだった。ギターは中学生のときに親戚から古いアコギを譲り受けてしばらく練習したことがあるけど全然合わなくて、(Fのコードがどうしても無理だった)そのときの自分が出す汚い音しか記憶になかったから、余計に感動してしまったんだった。
基本的に天野月さんに名前が変わってからの活動をきちんと追いかけていなかった(すいません)ので、ハジケトブゲノムとビューティフル・デイズは初めて聴いたのだけど、ビューティフル・デイズが、とてもよかった。これは翌日の岡山のセットリストにも入っていたけど、この曲がとてもよかった。
忘れたいことだけ、上手に忘れていけ。そうだなあ、そうできたら、どんなにいいだろう。

1時間の小さなライブはあっという間に終わってしまって、夜の部の抽選会が始まります。
わたしは抽選に持ち込まれるとまず勝てないクジ運の悪さなので、いやまあ絶対に当たらんやろうと思っていたんですが案の定当たらず、しかし隣の男性が当たったのにはびっくりした。い、いいなあ…! でも整理番号一桁台の人たち、最前列に座っていた人たちがたくさん当たって、1番の人なんて呼ばれたときには泣いてらっしゃって、ああ、こういう方こそ当たるべき…と、本当よかったですねと声をかけたかった。たぶんその方の隣にいた方が言ってると思う。
ご案内シートには「近隣に迷惑がかかると判断した場合中止します」と書かれていたのでちょっとびびっていたのですがつつがなく終わり、それが何よりだったなあと思います。
総観客数、おそらく100人もいない、すごく贅沢な特別ライブでした。月さん近かったし! すごい! そこにいる! すぐそこにいらっしゃる! あとから月さんのブログに掲載されてる写真見て、こんなに綺麗なところだったんだーと感動した。え、その場に居て何を見てきたの? たぶんいろいろ頭がいっぱいで境内を見渡す余裕がなかった。おつかれさんでした。

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しかし、ホテルに入ってtwitter見たら夜の部の会場は梟の館だったようで、い、い、いいなああ…!! ともう一回うらやましさが爆発した。夢じゃん、もはやそれは夢の世界じゃん…もともと翌日に岡山へ向かう前に千光寺経由で梟の館には行こうと思っていたけど、まさか夜の部、梟の館だったなんて…でも改めて考えてみたらそこ以外には考えられない最高の、チョイス…
という、くやしさはほどほどに、尾道の一日を終えました。高速バスで移動時間が長かったのでワンピースで来たんですが、足を出して歩いてるとめちゃくちゃ蚊に刺されてしまってすごい自業自得ブルー。
そして2日目、岡山へ。この日は爆睡でした。ホテルで寝ると決まって足が攣ったり夜中に起きたりするんですがこの日は死んだように寝ました。
尾道国際ホテルのベッドはたいへんに寝心地が良いです。ぜひ。

月さんブログ→http://tsuki-amano.weblogs.jp/

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(夕方もいいね)

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